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(1)定期健康診断で胸部エックス線検査の省略は実際に可能なのか?

働く人が毎年受ける定期健康診断で、全員が毎年受けてきた馴染みのある胸部エックス線検査が、平成22年4月1日から、一定条件下で省略が可能となりました。

労働安全衛生規則(以下安衛則)第44条に係る「定期健康診断における胸部エックス線検査等の対象者の見直しに関する改正」が行われたからですが、実はこの改正は、実際にはどのように対処したら良いのか、産業医も健診医も事業者も健診機関も、みんなが悩んでしまう難しい改正になっています。その内容を、例をあげてご紹介します。

 今回の改正でも胸部エックス線検査が省略できないのは40歳以上の方の定期健康診断、20・25・30・35歳時に行う節目健診であり、改正されていない雇い入れ時健康診断(安衛則第43条)、特定業務従事者健康診断(安衛則第45条)はこれまで通りです。また、省略できるといっても、結核に罹患しやすいとされる労働者、すなわち医療機関や学校等での業務に従事する方々、あるいはじん肺健診の対象になっている方々は省略することはできません。さらに、それ以外の方々でも、「医師が必要でないと認めるとき」に省略が可能ですが、この文言は血液検査や安静時心電図検査などと同じなのに、わざわざ注意書きで、「呼吸器疾患等に係る自覚症状及び他覚症状、既往歴等を勘案し、医師が総合的に判断すること」「胸部エックス線検査の省略については、年齢等により機械的に決定されるものではないこと」と記載されています。

本人の自他覚症状の有無をもとに検査の省略可否を決めることは、「診察した医師」がその場で決めることを意味しています。皆さんが今まで受けてきた健康診断は、医師の診察が最後にあったことと思います。それが胸部エックス線検査だけは診察の後に当該医師の省略可能の判断がなければ撮影する、という順番の変更とややこしい手続きが必要となってきます。

診察の後に胸部エックス線検査というのは、皆さんが患者として病院等を受診した際に「医師が必要と認めるとき」に実施する場合は理にかなっていますが、原則として臨床的に無症状の者が受診する定期健康診断の場では、健診の実情と合致しないのです。働く人の健康診断は事業者が負担し実施するものであり、事業者が健診機関に外部委託として発注する場合に、受託企業である健診機関が実施項目を決めることになると、健診機関は実施理由を全て発注者である事業者に説明して料金請求しないと正当性が担保できません。健診機関が事業者に個人の自他覚症状を示すことは常識的にみて守秘義務違反になるので不可能です。したがって事業者が健診機関を全面的に信用して「丸投げ」することが必要不可欠となります。しかし「丸投げ」は一般常識的には望ましいことではありませんし、責任の所在が不明瞭になってしまいます。

 丸投げをしなくて済む事業場で、現実問題として省略ができる可能性があるとなると、若年者比率が高い専属産業医がいて自ら健康診断の診察をしている大規模事業場だけ、ということになりそうです。

正直なところ、この改正をどのように活かせば良いのか、皆目見当がつかない、というのが偽らざる気持ちだと思います。皆さんのお知恵をお貸しいただきたいところです。

もうひとつ、法文解釈の問題もありますが、それは別の項で書きたいと思います。