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(3)胸部エックス線検査のメリットと被ばく

胸部エックス線検査の問題には、強制的に被ばくを増やすことへの懸念から省略すべきであるという意見があります。他方で、被ばくは十分少ないのだから病気がみつかるメリットのほうが大きいという意見もあります。わが国では胸部エックス線検査を長く全国民に行ってきたために、この検査を行うとどの程度のメリットがあるのかどうかを比較する対照群がないという問題があります。したがってこの論戦に決着はつかない可能性が高いのです。

撮影技術の進歩によって現在の胸部エックス線検査の被ばくは0.05ミリシーベルトとされています。これは胸部CT検査が6.9ミリシーベルトであること、地表での自然放射線の年間被ばくが2.4ミリシーベルトであること、東京とニューヨークを飛行機で往復した場合の被ばく増加分(高度による宇宙線の影響)が0.2ミリシーベルトであること、などからみても十分少ない被ばくと考えられます。

わが国では、健康診断でCTを撮影することも多くなってきました。メタボリック症候群の内臓脂肪の測定のためにCT検査をすることもあります。その被ばく量は胸部エックス線検査の被ばく量の138倍になります。米国東海岸に旅行してきたら胸部エックス線検査4回分の被ばくは受けるわけです。

この胸部エックス線検査による被ばくは大した量ではないとするのか、強制的に被ばくするのだから少量でも良くないとするのかは、様々な考え方があって議論があるところです。どの意見も、それぞれの立場からは正当だと考えられます。

侵襲のある検査を行うかどうかの判断は、その検査を受けることによるメリットとデメリットの比較によるべきであり、本来であればコストも手間も考慮しての受診者個々の判断によるべきものです。それを事業者が決めることに無理があるのかもしれません。本来の検査の意味合いからすれば、受診者の希望によって検査を行う健診のオプション項目とすべきものだと考えられます。

そこで、一つの方策としては、40歳未満で節目健診以外の方(学校や医療機関で就業する方やじん肺健診対象者を除く)については、安衛則44条で、医師が必要と認めた者以外は本人の希望によって胸部エックス線検査を行う、という方法が考えられます。この場合の問題点は、省略が可能な項目を全て機械的に省略してしまうような事業者だった場合に、本人が希望したのに受けられない、という危険があることです。

この危惧は第38回労働政策審議会安全衛生分科会議事録にも記載されているように、労働者側の懸念事項だったようです。つまり胸部エックス線検査が医学的意味合いとは別に、受診者の既得権益になっているということを意味しています。このような懸念を上手に説明して解消しないと実際に省略することは難しいということになります。

つまり、正当な理由があれば省略可能という場合、実際にはその理由付けが難しく、専門的な知見だけでは通らないという可能性もあるのです。

このような問題を通して、何のために健康診断を受けているのか、実施しているのかを、受診者・事業者・産業医や保健師・健診機関などが、それぞれの立場で改めて考えてみる良い機会になるかもしれません。