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1 新型インフルエンザに対する備えの基本的な考え方

新型インフルエンザに免疫を持つ人はほとんどいないため、感染は急速に拡大します。感染者が急増すると欠勤者の増加や患者の殺到によって社会的機能、医療機関が破綻する恐れがあります。

そのため、 (1)感染拡大を遅らせ、(2)感染者のピークを抑える、といった対策で破綻を回避しつつ、ワクチンを開発・生産することが基本となります。

具体的には(1)学校閉鎖や感染者自宅待機、集会興行の制限などの社会的対策、(2)抗インフルエンザ薬の備蓄、医療体制の整備とワクチン開発生産といった医学的対策が挙げられます。過去の流行では学校の閉鎖・集会興行の制限を早期から確実に実施した都市で死亡率が低かったという報告もあり、社会的な対策徹底の重要さがうかがえます。

2 新型インフルエンザに対する個人レベルでの備え

社会的な対策、企業における対策も個々人の正しい知識と行動が基礎となります。

感染予防は手洗いの励行、咳やくしゃみなどによる飛沫を飛散させないことが基本になります。インフルエンザウイルスは脂質の膜で覆われているため、石鹸で15秒以上かけて手を洗う、アルコール消毒を利用するなどは有効な方法です。

咳やくしゃみによる飛沫はおよそ2m飛散するといわれているため、可能なら対人距離を2m以上とること、咳エチケット(咳・くしゃみなどの症状があるときはマスクをする、または口をハンカチ・ちり紙・二の腕などで覆う、ちり紙等はすぐゴミ箱へ)の徹底も大切です。なお他者に感染を広げないためにはマスクは有効ですが、自身の感染を防ぐ効果はまだ立証されていません。過信せず、鼻と口を正しく覆い、また使用済みのものは直ちにゴミ箱に捨てましょう。

もちろん日ごろから充分な栄養・休養で体調を整え、持病の治療をしっかり行うなど基礎体力を維持することも重要です。

なお、強毒性ウイルスの流行に際しては学校や保育・介護施設の閉鎖や縮小、医療機関の受診方法の変更、買い物を含む外出の自粛要請も予想されます。ケアを要する家族の対応を話し合う、医療機関の情報を集める、食糧や日用品を二週間程度(理想的には流行が収束する三ヶ月程度)備蓄するといった生活防衛も個人レベルの備えといえるでしょう。

3 新型インフルエンザに対する社会的対策

国、地方自治体は流行に際して対策本部を設置し、それぞれ定めた「新型インフルエンザ対策行動計画」に則って情報の収集と対策の実施に当たることとなります。今回の流行では弱毒性のウイルスであったにもかかわらず、強毒性ウイルスを想定した対策を続けたことが反省点として挙げられています。それだけに、政府や各自治体の対応について情報を集めることの重要性が増したとも言えます。

4 企業に要求される困難な舵取り

企業は安全衛生に関する法令を守ることはもちろんですが、従業員に対しては安全配慮義務を負っています。新型インフルエンザ流行時においても例外ではなく、従業員が業務によって感染するリスクを評価し、それに対して感染防止策、必要によっては事業の縮小・休止など適切な対策を行うことが企業の義務となります。安全配慮義務では更に、法や指針の基準を守るだけでなく、その企業の事情に応じた対策を実施することが求められます。

 

他方、企業には、利益を確保し、事業を継続して社会に貢献し、存続すること期待されています。またそのため経営者には民事上、善管注意義務が課せられています。加えて、インフラ、金融、交通物流、食料品ほか社会生活の維持に直結する事業者(社会機能維持者)には、その機能を維持することが強く要請されます。新型インフルエンザ流行時には、社会的にまたは企業存続に重要な事業を維持し、発生しうる損失を最小限に留め、かつ従業員に対する安全配慮義務を果たすという困難な舵取りが必要となります。

5 インフルエンザ対策行動計画の策定を

そのためには、事前に従業員の感染防止対策と事業継続計画(BCP)を織り込んだインフルエンザ対策行動計画を策定し備えておくことが鍵となります。計画は安全衛生担当者だけで立案・実施できるものではなく、企業経営層が関与し、企業活動自体と適合し、全体で取り組むものでなくては効果は期待できません。

 

計画では、企業の役割や特性を踏まえ、方針を明らかにします。そして経営層の関与のもと、インフルエンザ対策本部、ほか必要な役割と担当事項を定めます。情報が刻々と変化する中では情報収集の役割は大きく、また産業医や産業看護職の参加、外部専門機関との連携も重要です。

6 従業員の感染防止対策

従業員の感染防止対策では、感染リスクのある業務の特定、妊婦や慢性疾患患者など特に配慮を要する従業員の特定、必要な防護策、感染者への対応策などを定めます。配慮を要する者の条件、感染した場合の出勤差し止めや回復後に出勤を許可する条件(例:症状消失し2日経過後、診断書等不要)、必要な防護策とそのための備品(N95または防じんマスクD2ほか保護具、消毒薬など)は随時最新の知見をもとに見直す必要があります。

特に、ウイルスの毒性や流行状況に応じて対策を強化、あるいは緩和するといった柔軟性をもたせることは今回の貴重な教訓でしょう。

なおこれらの対策実施時には、欠勤者の早期把握、業務の把握、健康上配慮を要する従業員の特定など、平時からの衛生管理が真価を発揮することになります。

7 新型インフルエンザ流行を想定した事業継続計画

事業継続計画の基本は災害を想定したものと同様ですが、新型インフルエンザの全世界的流行下では他地域からの応援・救援が期待できないこと、流行期間が数ヶ月間に及び、かつ第二波・第三波の襲来が懸念されることに留意を要します。

計画では、社会機能の維持や企業存続のために必要な事業を特定し、そのために必要な資源の確保を行います。なお従業員の確保においては従業員自身の感染のほか、家族の感染や学校閉鎖などに伴う出勤不能も発生しうるため、これらを考慮した計画が必要です。業務によっては在宅勤務体制の整備も有効な解決策となるでしょう。

なお事業継続計画においても、ウイルスの毒性や流行状況に応じた柔軟な対応が必要であることは同様です。

8 海外派遣労働者への対応

海外派遣労働者では特に事前の対策が重要になります。流行するウイルスの毒性、派遣先の状況などによっては早期の帰国も考えられます。他方、事業を継続する場合、従業員の感染防止や生活維持、事業維持のための必要な物資を備蓄する必要があります。派遣先の社会状況・医療資源によっては、事前に医師が抗インフルエンザ薬を処方し、可能な限り緊密に連絡を取りつつ、一定の条件化で自己治療を行うことも必要になるでしょう。

9 計画の継続的改善を

振り返れば2002年のSARS、2009年の新型インフルエンザと、新たな感染症が次々と発生しています。近い将来、再び企業でも新たな感染症への対応に迫られる事態が発生する可能性は高いと言わざるを得ません。新型インフルエンザ対策において整備された枠組みは、最新の情報を収集し継続的に改善していくことで、新たに発生する脅威にも対応できるものになるでしょう。