独立行政法人 労働者健康安全機構 千葉産業保健総合支援センター

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ちば産保コラム

  • 職場復帰

    所長コラム

    千葉産業保健総合支援センター

    所長 能川 浩二

     

    人は健康な時だけではなく、病に倒れることもあります。病に対して闘う方法を人類は予防医学として考案してきました。即ち、予防医学の3段階の戦略です。

    第一次予防は病気にかからない身体をつくること、つまり健康増進です。Breslow以来の研究により健康生活習慣は明らかにされており、これを実践することが重要です。第2段階は病気の早期発見、早期治療です。悪性腫瘍をはじめ、早期発見が最も有効な病は数多くあります。健康診断が重要な手段です。第3段階は病気からの早期の回復です。臨床医学による治療により、病が完治することも多いのですが、近年ではなんらかの後遺症を残し、健康の時と同じようには心身の機能が回復しないこともあります。このような心身の機能低下を抱えながら人は生きていくことになります。

     

    予防医学はこの段階で完結なのでしょうか。私は決してそのようには考えていません。人は社会的な存在であり社会とのかかわりなしに生きていくことはできません。その最も基本をなすものは「働くこと」即ち「生きていくこと」に参加することと考えます。「生きること」は、即ち「働くこと」です。どのような形であれ「働くこと」に参加することです。職場復帰とは、病により機能を低下した人、あるいは機能を失った人が「生きること」に参加する運動であると考えます。この職場復帰が果たされた段階で予防医学の戦略は完結するのです。

     

    振り返って職場復帰の現状はどうでしょうか。厳しい企業間競争、国際競争に曝されている企業が求めるのは、心身とも健康で、しかも能力の高い人です。企業人は最高度に効率性を常に求めているのです。このような環境の中で心身の機能が低下した人が「生きていくこと」即ち「働くこと」ができるのでしょうか。ここに企業利益と職場復帰の相克の基本があるのです。残念ながら、一部の企業は心身の機能の低下した人はもちろん、能力が十分でないと判断した人に対しては早期退職制度などと称して、出来るだけ早く企業外に置くことを一般的な方針として実施しているように感じられることがあります。このような状態には根本的な発想の転換がなければ職場復帰の問題は解決できません。

     

    企業は何のために存在するものでしょうか。ただ単に「利益を得る組織」であるならばこのような企業は社会的な存在としては大いに疑問であります。企業は人間の幸福を生み出すために機関でなければなりません。企業は社会的な資源であり、財産です。そのように考えれば病により心身の機能の低下した人に対してどのように行動すべきかが明らかでしょう。

     

    多くの企業では、社員の健康を守るために多大な努力をしています。このような企業の姿勢は最終的には企業の活性化に結びつき、企業としての発展がもたらされると考えています。弱者の職場復帰は企業の姿勢を評価する重要な課題です。