研究代表者 | 相談員 | 城戸照彦 | (千葉大学医学部助教授) |
共同研究者 | 相談員 | 能川浩二 | (千葉大学医学部教授) |
相談員 | 吉田之好 | (千葉県医師会理事) | |
所 長 | 荘司榮徳 | ||
副所長 | 小山里子 |
喫煙による健康影響に関しては、これまでに数多くの研究が報告されている。近年、社会的にもその健康影響への関心が高まる中、平成8年2月労働省は「職場における喫煙対策のためのガイドライン」を策定し、公表した。
これまでにも、産業保険推進センターによる調査研究において職場の喫煙対策に関する実態調査がなされてきたが、上記ガイドラインが出されて以降の状況についてはまだ報告がほとんどなされていない。
今回、喫煙対策に関する実態調査を実施したので報告する。
2 対象と方法
対象事業所は千葉県下の健康保持増進対策の推進を図る目的で結成された「千葉働く人の健康づくり協議会」に加入している140事業所(平成8年9月現在)である。実態調査は平成8年10月に、質問票を用いて郵送法にて実施。回収率は90%(126事業所)であった。
3 結果
業種別事業所内訳で、比率の高いのは、化学工業(17%)、鉄鋼・金属製造業(14%)、電気・輸送機械製造業(12%)の順であった。今回、回答事業所で、ない業種は繊維製品製造業、木材・木製品製造業、パルプ・紙・印刷・製本、農業水産業である。
従業員数別事業所内訳では、従業員数100人以上はいずれも20%前後の比率であったが、100人未満の事業所は14%と他の群に比べてやや低値であった。
今回の調査は労働省による「職場における喫煙対策のためのガイドライン」が公表されて半年余の平成8年10月に調査が実施された。そのため、今回の調査結果で喫煙対策の実施率が74%と高かったのもこのことを反映しているものと思われがちだが、実際には平成8年に喫煙対策を実施したと回答した事業所は、27%にすぎない。それ以前の1991年から95年までの5年間に53%と全体の過半数の事業所は喫煙対策を実施していた。この実施率は68%というガイドラインの認知度を上回っていることとも符合する。一方、喫煙対策の推進状況を把握している事業所が17%にすぎなかったことが本調査で明らかになった。この低率な回答率は、空気環境の測定が27%の事業所でしか実施されていないことや、喫煙率調査も20%でしか実施されていないという結果に繋がっているものと考えられる。やりっぱなしの状況であり、保健計画の段階で喫煙対策の結果をどのように評価するかとの観点が抜け落ちていることを図らずも示したといえよう。対策を実施するにあたって、まず現状を把握するためにも、性・年代別に喫煙率の実態調査を各事業所で実施していくよう今後助言していくべきであろう。今回、喫煙率の調査結果を明らかにした事業所は12にすぎなかった。ちなみに平成7年度の日本たばこ産業株式会社の全国たばこ喫煙率調査によると、わが国の20歳以上の喫煙率は男性58.8%、女性15.2%であり、今回の成績も概ね全国平均に一致している。今回の調査で、喫煙対策を実施している事業所における従業員への浸透度についての評価では、約3/4の事業所が浸透していると回答しているものの、職場での人間関係、雰囲気の変化や仕事の能率への影響においては、「どちらともいえない」が約80%を占めており、評価を下すには、もうしばらく時間を要すると思われる。また、喫煙者からの不満については、「多少ある」と回答した事業所が約1/3あり、受動喫煙の害を喫煙者に啓蒙していると回答した事業所が約半数であることを反映していると思われる。今後とも、啓蒙教育を教化していくことが必要であろう。
事業所の従業員数・規模別では、100人以下の小規模事業所における喫煙対策実施率は約半数と全体の中で最も低い実施率を示した。個別の課題を通じてこの格差を埋めていく努力を今後ともしていかなければならないであろう。また、喫煙対策を実施していない事業所にその理由を聞いた結果では,「当事者間で解決」が約2/3であった。これは、「自分の健康は自分で守る」ことが一面的に強調され、事業所責任を個人に転嫁させる思想が、一部の事業所に根深く息づいているようであり危惧される。
ガイドラインでは、喫煙対策の方法として分煙の場合には、空間分煙を推奨しているが、大半の区域で空間分煙が時間分煙を上回っているが、事務所においてまだ20%の事業所が時間分煙を実施している現状に注目したい。特に事務所内で働く人の場合、受動喫煙の害を強く受けるおそれがあるので時間分煙を空間分煙に切り替えていくべきであろう。
5 まとめ
以上より、今後とも事業所における喫煙率の実態調査や受動喫煙の健康影響に対する啓蒙教育の必要性が本調査研究より明らかになった。