改正労働安全衛生法施行前後の健康診断、健康管理に対する千葉県の産業医の対応の比較(平成9年度)
主任研究者 |
千葉産業保健総合支援センター |
産業保健相談員 |
吉田 之好 |
共同研究者 |
千葉産業保健総合支援センター |
産業保健相談員 |
能川 浩二 |
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千葉産業保健総合支援センター |
所長 |
荘司 榮徳 |
1 はじめに
平成8年10月に改正労働安全衛生法が施行された。この改正の特徴は産業医の選任に関して資格要件を定めたことと健康診断事後措置の強化である。そのため、今回の法改正により産業医の業務内容等が変化することが予想され、関係団体はその広報活動を通じて周知を図ってきた。
今回の調査研究は、法改正から約1年が経過した時点での改正内容の周知状況と法改正に伴う産業医活動内容の変化を明らかにすることを目的に実施した。
Q1 産業医として選任されるための資格要件が定められた
Q2 事業者は健診結果に基づいた医師の意見聴取を行うこととなった
Q3 医師は、健診結果に基づいた就業場の措置についての意見を健康診断結果個人票に記載することとなった
Q4 事業者は、産業医から就業上の措置についての意見を聞くこととなった
Q5 就業上の措置として就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮などが具体例として挙げられた
Q6 事業者は必要がある者に対しては、医師、保健婦等による保健指導を行うよう努めることとなった
Q7 一般健康診断結果を各労働者に通知しなければならないことが今回初めて明記された
Q8 50人未満の事業場では、地域産業保健センター等を利用し労働者の健康管理に努めることとなった
Q9 産業医の勧告が改正労働安全衛生法に明記された
Q10 産業医の勧告を尊重し、不利益な取り扱いをしてはならないことが示された |
2 対象と方法
千葉県内千葉市、船橋市及び市原市の産業医登録を行っている医師それぞれ176名、79名、47名の合計293名に対してのアンケートを行った。設問は産業医経歴、安衛法及び関連法規の改正点の周知状況及び業務内容の変化に関連する項目である。
3 結果
アンケートは166名から回収され、回収率は56.7%であった。そのうち専属産業医は17.2%であり、嘱託産業医は80.1%であった。
産業医の資格要件では日本医師会認定産業医が最も多く79.6%であった。その他の資格要件は10%以下であった。その他のなかで移行措置等を挙げた産業医はほとんどいなかった。
産業医業務従事日数は専属産業医で平均年間102日、嘱託産業医で平均年間35.7日であった。
産業医の年齢分布では、嘱託産業医は30歳台が少なく、専属産業医は70才代が少なかった。
法及び関連法規改正内容の周知状況を図1に示す。「産業医の資格要件」、「健診結果に対しての医師の意見聴取」、「就業上の措置の健診個人票への記載」及び「就業上の措置に関する医師の意見聴取」に関しては、80%程度の産業医が理解をしているが、「保健指導の実施」、「健康診断結果の通知」、「地域産業保健センターの利用」、「産業医の勧告」及び「産業医の不利益取り扱いの禁止」は60%程度の産業医が理解していた。『健康診断結果に基づき事業者が構ずべき措置に関する指針』に示された「就業措置の具体的な内容」に関しては50%程度の理解と最も低かった。
法改正後の産業医業務の変化に関しては、産業医の資格要件に関して会社から相談を受けた産業医は30歳以下の産業医に多く60%であった。それ以外の年齢階層では20〜40%と比較的少なかった。健診結果に基づく医師の意見聴取に関しての相談は年齢階層があがるほど多くなり、40歳代以上では60%の産業医が相談を受けていた(図2)。保健指導の実施に関しての相談は年齢階層に関係なく50〜60%の産業医が相談を受けていた。産業医の意見聴取に伴い問題となると考えられたプライバシーの保護に関しての相談比率は低く、20〜30%にとどまった。また就業上の措置に関する意見を述べる機会が増えたと回答した産業医は20〜40%と年齢階層に関係なく高くはなかった(図3)。保健指導対象者は事後措置の強化に伴い増加することが予想されたので調査した。その結果40歳代以下と70歳代の産業医の40%以上が対象者が増加したと回答していた(図4)。
4 考察
今回の労働安全衛生法の改正、特に資格要件に関しては法改正後の産業医研修会への参加状況を見ても強力なインパクトを社会に与えたと考えられる。
今回調査を行った千葉県においても平成8年10月以降日本医師会認定産業医研修は42回その他の関係団体の研修が20回、更に産業保健推進センターによる研修が加わり、それぞれにおいて改正労働安全衛生法の内容の周知に努めてきた。
法改正内容の周知状況は項目により異なり、資格要件や意見措置などは高率の理解を示していたが、就業上の措置の具体的内容など理解の低いものもあり、法だけではなく、それに付帯する省令、通達、指針などの内容に関しての一層の広報活動が必要と考えられた。
法改正の柱である健診事後措置としての保健指導の充実は50%で検討がされ、実際に30〜50%で対象者が増加していた。そのため、その受け皿である保健婦の活用と育成が今後の課題と考えられた。
一方、プライバシーの保護に関しては、指針に示されているにもかかわらず、その実施の検討も多くなく、プライバシー保護のための研修、広報活動が必要となることが考えられた。